剰余群

剰余群

さて、今回は久しぶりに群の演算子として$\displaystyle{\circ}$を使います。
$\displaystyle{\mathbb{G}}$の演算子を$\displaystyle{\circ}$とします。
前回は剰余類というものを話しましたが・・・
今回は剰余類がになる?という話です。


$\displaystyle{\mathbb{H}}$を群$\displaystyle{\mathbb{G}}$正規部分群とします。
そして、その剰余類
$\displaystyle{\{g\circ\mathbb{H}|g\in\mathbb{G}\}}$
は、なんと群になります!!!

この群のことを$\displaystyle{\mathbb{H}}$に関する剰余群といい、
$\displaystyle{\mathbb{G}/\mathbb{H}}$
と表します。

どんな群?

てなこと急に言われてもなぁ〜(;一_一)
一体どんな群になるの!?
と思うでしょう。

群といったら演算子ですよね?
演 算子に関してどのような振舞いをするかを調べないと分からないですよね?


まずその前に、一つだけ約束事を・・・

$\displaystyle{g_1\circ\mathbb{H},g_2\circ\mathbb{H},\cdots}$
と書くのはいちいち面倒なので、
$\displaystyle{[g]:=g\circ\mathbb{H}}$
と、新しくカッコの記号“[ ]”を定義します。
つまり$\displaystyle{[g]}$とは $\displaystyle{g}$の同値類を全て集めた集合と考えてください。

$\displaystyle{[g]\in\mathbb{G}/\mathbb{H}}$
となることを考えると、 よく見たらカッコ“[ ]”は$\displaystyle{\mathbb{G}}$から $\displaystyle{\mathbb{G}/\mathbb{H}}$への写像と考えられますよね?分かりますか?
この写像は準同型写像となります(準同型写像はまだ解説してませんが・・・次のページで紹介します)。


また$\displaystyle{g_1{\sim}g_2}$$\displaystyle{[g_1]=[g_2]}$ は同値な条件です。
つまり$\displaystyle{g_1,g_2}$が同じ同値類に属することと、 $\displaystyle{[g_1]=[g_2]}$は全く同じことを言っている、ということです。
これも分かりますか?
この部分がよく分からないと、このページは少しキツくなってしまいますが・・・(今回の内容は少し難しいです)
もし分からなくなったら、前回の剰余類のページをもう一度ご確認くださいm(_ _)m



さて、このようにして作られた集合に対して、どのように群を定義するかというと・・・




$\displaystyle{[g_1]\circ[g_2]:=[g_1{\circ}g_2]}$

と定義します。



これが剰余群$\displaystyle{\mathbb{G}/\mathbb{H}}$演算子の定義です。
このようにして、新しい群を作ることができました。

1つ気をつけることがあります。
それは、
左辺$\displaystyle{[g_1]\circ[g_2]}$ の演算子$\displaystyle{\circ}$と、
右辺$\displaystyle{[g_1{\circ}g_2]}$ の演算子$\displaystyle{\circ}$とでは、
意味が違うということです。

右辺の$\displaystyle{\circ}$は群$\displaystyle{\mathbb{G}}$の演算子です。
左辺の$\displaystyle{\circ}$は、たった今新しく作った群$\displaystyle{\mathbb{G}/\mathbb{H}}$の演算子です。


例を挙げます

自分で書いて何なんですが、
正直、今の説明は分かりにくいと思います😖

剰余群は、少しややこしいので、例を出します。
くれぐれも、分かりにくい・・・というかややこしいです!!!
じっくり読んでください。
もし分からなくなったら、また上の定義に戻って確認することも大切です。



自然数$\displaystyle{\mathbb{Z}}$は足し算$\displaystyle{+}$を演算子として、群になっていますよね?
$\displaystyle{\mathbb{Z}}$の部分群$\displaystyle{3\mathbb{Z}}$を考えます。


※ここで$\displaystyle{3\mathbb{Z}}$とは、3の倍数の整数のことです。
$\displaystyle{3\mathbb{Z}=\{\cdots,-9,-6,-3,0,3,6,9,\cdots\}}$


この部分群$\displaystyle{3\mathbb{Z}}$の剰余類は、
$\displaystyle{\{n+3\mathbb{Z}|n\in\mathbb{Z}\}}$
となります。



さてさて、$\displaystyle{3\mathbb{Z}}$は正規部分群になっていますよね?
任意の自然数$\displaystyle{n}$に対して、
$\displaystyle{n+3\mathbb{Z}=3\mathbb{Z}+n}$
と、なっているので、
これは正規部分群のとなることが分かります(整数は足し算+を演算子にしているので。+は可換です)。


さて$\displaystyle{\mathbb{Z}/\mathbb{3Z}}$はどんな集合になるでしょうか?
上の剰余群の定義より、
$\displaystyle{\mathbb{Z}/\mathbb{3Z}}$の元は
$\displaystyle{n+3\mathbb{Z}}$
と表すことができるのでした。

とすると$\displaystyle{\mathbb{Z}/\mathbb{3Z}}$の元は
$\displaystyle{3\mathbb{Z}=\{\cdots,-6,-3,0,3,6,\cdots\}}$
$\displaystyle{3\mathbb{Z}+1=\{\cdots,-5,-2,1,4,7,\cdots\}}$
$\displaystyle{3\mathbb{Z}+2=\{\cdots,-4,-1,2,5,8,\cdots\}}$
の3つしかないことが分かります。
例えば、1,2,3以外の数を3Zに足すと、
$\displaystyle{4+3\mathbb{Z}=1+3+3\mathbb{Z}=1+3\mathbb{Z}}$
となるので、結局この剰余群の元は上の3つしかないのです。




まぁ要するに
$\displaystyle{n,m}$を自然数として $\displaystyle{n-m{\in}3\mathbb{Z}}$のとき、
$\displaystyle{n{\sim}m}$
であるとするのでした(前回剰余類の復習)。

$\displaystyle{h\in3\mathbb{Z}}$としたとき、
$\displaystyle{n{\sim}n+h}$
が成り立つのが分かるでしょうか?


だから$\displaystyle{[n]=[n+h]}$と考えられます。
つまり商群の世界では、例えば$\displaystyle{3}$$\displaystyle{3+h}$ は同じ元と見なすのだと思ってください!!
自然数$\displaystyle{\mathbb{Z}}$をグループ分けしているのです。


1も4も−2も、
$\displaystyle{[1]=[4]=[-2]}$となっているので、同じ元と見なすわけです。
同じ剰余類の中に入っている元は、同じ物!!
これが剰余群の基本的な考え方です。

今回も、
$\displaystyle{[0]=3\mathbb{Z}}$
$\displaystyle{[1]=3\mathbb{Z}+1}$
$\displaystyle{[2]=3\mathbb{Z}+2}$
とします。
$\displaystyle{[1]=[4]=[7]=\cdots}$
と考えると、分かりやすいと思います。


群表は、以下のようになります。
$\displaystyle{[0]}$ $\displaystyle{[1]}$ $\displaystyle{[2]}$
$\displaystyle{[0]}$ $\displaystyle{[0]}$ $\displaystyle{[1]}$ $\displaystyle{[2]}$
$\displaystyle{[1]}$ $\displaystyle{[1]}$ $\displaystyle{[2]}$ $\displaystyle{[0]}$
$\displaystyle{[2]}$ $\displaystyle{[2]}$ $\displaystyle{[0]}$ $\displaystyle{[1]}$

分かるとは思いますが、$\displaystyle{n\in\mathbb{Z}}$でも
$\displaystyle{[n]}$は自然数の元ではありません。自然数の商群の元です。
$\displaystyle{[n]\in\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}}$であって、
$\displaystyle{[n]\in\mathbb{Z}}$ではありません。
群と商群をごっちゃにする人がいるので・・・

なぜ“正規部分群”で割る?

このページの冒頭では正規部分群で割ると述べましたが、
なぜ正規部分群なのでしょうか?

別に正規部分群じゃない適当な部分群$\displaystyle{\mathbb{H}}$を持ってきて
$\displaystyle{\mathbb{G}/\mathbb{H}}$
で群にすればいいじゃん???


と思いますが、
しかし、正規部分群で割らなければ、少し訳のわからないことが起こるのです。

$\displaystyle{[x],[y],[z]\in\mathbb{G}/\mathbb{H}}$として、
$\displaystyle{[x]=[y]}$ではあるが
$\displaystyle{[x]\circ[z]\neq[y]\circ[z]}$となってしまう。
・・・あれ?


中学で習った方程式によれば、
$\displaystyle{x=y}$ならば$\displaystyle{xz=yz}$
となるのは当たり前です。
両辺に同じ数を掛け算しても、等式が成り立つ・・・。これ中学でやりましたよね?




さて、どんな時にこのような不思議な現象が起こるのか・・・例を挙げます。

上のようなオカシなことが起こる例

ココで定義した群を$\displaystyle{\mathbb{G}}$とします。
$\displaystyle{\mathbb{H}=\{e,a\}}$
とします。
当然$\displaystyle{\mathbb{H}}$$\displaystyle{\mathbb{G}}$の部分群ではありますが、
正規部分群ではありません。

$\displaystyle{[e]=e\mathbb{H}=\{e,a\}}$
$\displaystyle{[r]=r\mathbb{H}=\{r,b\}}$
$\displaystyle{[l]=l\mathbb{H}=\{l,c\}}$
$\displaystyle{[a]=a\mathbb{H}=\{e,a\}}$
$\displaystyle{[b]=b\mathbb{H}=\{r,b\}}$
$\displaystyle{[c]=c\mathbb{H}=\{l,c\}}$
ということで、
$\displaystyle{[e]=[a]}$
となっていますよね?

しかし
$\displaystyle{[e]\circ[r]}$$\displaystyle{[a]\circ[r]}$はどうなるでしょうか?

$\displaystyle{[g_1]\circ[g_2]=[g_1{\circ}g_2]}$
だったはずなので、
$\displaystyle{[e]\circ[r]=[e{\circ}r]=[r]}$
$\displaystyle{[a]\circ[r]=[a{\circ}r]=[c]}$

つまり $\displaystyle{[e]\circ[r]\neq[a]\circ[r]}$
となってしまいました!!!

しかし$\displaystyle{[e]=[a]}$だったはずなのに・・・



もう一度言うと、
$\displaystyle{[e]=[a]}$だが
両辺に同じ元$\displaystyle{[r]}$を右から演算させたら
$\displaystyle{[e]\circ[r]\neq[a]\circ[r]}$となってしまったのです。





このように、正規部分群で商群を作らないと、変なことが起こります。
しかし、正規部分群で作った商群ならば、上のような変なことは絶対に起こりません。



まとめますと、
$\displaystyle{\mathbb{H}}$$\displaystyle{\mathbb{G}}$の正規部分群としたとき
任意の$\displaystyle{[x],[y],[z]\in\mathbb{G}/\mathbb{H}}$に対して
$\displaystyle{[x]=[y]\Rightarrow[x{\circ}z]=[y{\circ}z]}$
が成り立ちます(→証明)

剰余群の単位元と逆元

ところで、剰余群が“群”であるならば、それに単位元や逆元も存在しているはずです。

ちなみに$\displaystyle{e}$$\displaystyle{\mathbb{G}}$の単位元として
$\displaystyle{[e]}$
が剰余群の単位元になります。

$\displaystyle{[g]}$の逆元は $\displaystyle{[g^{-1}]}$となります。


自分で確かめてみてくださいね。

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