正規部分群

正規部分群ってどんな群?

今回は、正規部分群というものを紹介します。
「正規部分群」という言葉の通り、
部分群の中で、ある特別な条件を満たしているものを“正規”部分群というのですが・・・
この正規部分群、一体どんな群なのでしょうか?

定義

$\displaystyle{\mathbb{H}}$$\displaystyle{\mathbb{G}}$の部分群とします。

・・・で、もし群$\displaystyle{\mathbb{G}}$のどんな元$\displaystyle{g}$を選んできても、
$\displaystyle{g\mathbb{H}=\mathbb{H}g}$
のような関係式が成り立っているような部分群$\displaystyle{\mathbb{H}}$を、
正規部分群と言います。

前回、元と集合の演算を紹介しましたので、
$\displaystyle{g\mathbb{H}}$
の意味は分かりますよね?


ところで、別の本では
任意の$\displaystyle{g}$に対して $\displaystyle{g\mathbb{H}g^{-1}=\mathbb{H}}$
が成り立つ時、このHを正規部分群という・・・
と書いてあることがありますが、
これは先ほどの定義と同値です。

正規部分群の例(三角形の回転)

例えば、三角形の回転で使った例をここで挙げます。
以下に、その群の群表をお見せします。
$\displaystyle{e}$ $\displaystyle{r}$ $\displaystyle{l}$ $\displaystyle{a}$ $\displaystyle{b}$ $\displaystyle{c}$
$\displaystyle{e}$ $\displaystyle{e}$ $\displaystyle{r}$ $\displaystyle{l}$ $\displaystyle{a}$ $\displaystyle{b}$ $\displaystyle{c}$
$\displaystyle{r}$ $\displaystyle{r}$ $\displaystyle{l}$ $\displaystyle{e}$ $\displaystyle{b}$ $\displaystyle{c}$ $\displaystyle{a}$
$\displaystyle{l}$ $\displaystyle{l}$ $\displaystyle{e}$ $\displaystyle{r}$ $\displaystyle{c}$ $\displaystyle{a}$ $\displaystyle{b}$
$\displaystyle{a}$ $\displaystyle{a}$ $\displaystyle{c}$ $\displaystyle{b}$ $\displaystyle{e}$ $\displaystyle{l}$ $\displaystyle{r}$
$\displaystyle{b}$ $\displaystyle{b}$ $\displaystyle{a}$ $\displaystyle{c}$ $\displaystyle{r}$ $\displaystyle{e}$ $\displaystyle{l}$
$\displaystyle{c}$ $\displaystyle{c}$ $\displaystyle{b}$ $\displaystyle{a}$ $\displaystyle{l}$ $\displaystyle{r}$ $\displaystyle{e}$
この群は、以下の6つの部分群を持ちます。
$\displaystyle{\{e,r,l,a,b,c\}}$
$\displaystyle{\{e,r,l\}}$
$\displaystyle{\{e,a\}}$
$\displaystyle{\{e,b\}}$
$\displaystyle{\{e,c\}}$
$\displaystyle{\{e\}}$

以上のものが、この群の部分群です。

この中で、正規部分群になっているものといえば
$\displaystyle{\{e,r,l,a,b,c\}}$
$\displaystyle{\{e,r,l\}}$
$\displaystyle{\{e\}}$
の3つだけですね。


残りの3つ:
$\displaystyle{\{e,a\}}$
$\displaystyle{\{e,b\}}$
$\displaystyle{\{e,c\}}$
これらは正規部分群ではありません。


例として
$\displaystyle{\{e,a\}}$
の場合を確かめて見ましょう。
これは正規部分群ではありません。
確かに、
$\displaystyle{a\{e,a\}=\{a,e\}}$
$\displaystyle{\{e,a\}a=\{a,e\}}$
なので、$\displaystyle{a}$を選んだときは
$\displaystyle{a\{e,a\}=\{e,a\}a}$
となり、等式が成り立つのですが・・・
例えば$\displaystyle{r}$を選んだときは
$\displaystyle{r\{e,a\}=\{r,b\}}$
$\displaystyle{\{e,a\}r=\{r,c\}}$
になってしまうので、結局
$\displaystyle{r\{e,a\}\neq\{e,a\}r}$
なのです。
よって、例えばどんな元$\displaystyle{g}$を選んできたとしても
$\displaystyle{g\{e,a\}=\{e,a\}g}$
が成り立つとは限らないのです。
ということで、これは正規部分群ではないですね。



次は、
$\displaystyle{\{e,r,l\}}$
という部分群で試してみましょう。
$\displaystyle{r\{e,r,l\}=\{r,l,e\}}$
また、
$\displaystyle{\{e,r,l\}r=\{r,l,e\}}$
となるので、結局
$\displaystyle{r\{e,r,l\}=\{e,r,l\}r}$
となっています。

また、
$\displaystyle{a\{e,r,l\}=\{a,b,c\}}$
$\displaystyle{\{e,r,l\}a=\{a,c,b\}}$
となるので、結局元$\displaystyle{a}$をとったとしても
$\displaystyle{a\{e,r,l\}=\{e,r,l\}a}$
という関係式が成り立ちます。

他の元の場合でも、自分で調べてみれば分かりますが、
$\displaystyle{g}$がどんな元であろうとも
$\displaystyle{g\{e,r,l\}=\{e,r,l\}g}$
が成立します。
(スペースの都合上、詳しいことは省略しますが自分で確かめてみて下さい。
たった位数が6の群なので、確かめるのは簡単だと思いますよ♪)

だから、
$\displaystyle{\{e,r,l\}}$
は、正規部分群であるのです。

絶対に正規部分群になるもの

まず、群$\displaystyle{\mathbb{G}}$が可換群であるとき、
その部分群は必ず正規部分群になります!
これは考えてみれば、あたりまえです。
「可換群」とは、演算子で左右交換しても値が同じになるので、
$\displaystyle{g\mathbb{H}=\mathbb{H}g}$
が成り立つのは、明らかですね。


じゃあ、可換群じゃなかったら正規部分群となる部分群はないの???と思うかもしれませんが、
以上の三角形の回転の群の例では、
これは可換群ではないですが、ちゃんと正規部分群は持っていました。




また、群は必ず単位元を持ちます(群の公理を参照して下さい)ので、 どんな群も絶対に単位元しかもたない群
$\displaystyle{\{e\}}$
を部分群として持ちます。

この、部分群$\displaystyle{\{e\}}$は正規部分群です。
なぜなら、単位元は
$\displaystyle{ea=ae=a}$
のように、可換な性質が成り立つように、定義してあるのでした。




次の例です。
$\displaystyle{\mathbb{G}}$自身も群$\displaystyle{\mathbb{G}}$の部分集合です。
この部分群$\displaystyle{\mathbb{G}}$も正規部分群です(自分で確かめてください)。



つまり、自明な群は必ず正規部分群となります。
自明な群とは、真部分群ではない部分群のことです。
(真部分群って、覚えていますか・・・?自分自身と単位群ではない部分群のことです。部分群のページで解説しました)

単純な群

正規部分群である真部分群を持たないような群のことを、単純な群と呼びます。

上の三角形の例では、正規部分群は3つありましたが、
$\displaystyle{\{e,r,l\}}$
という正規部分群は、自明な部分群ではないので、
この「三角形の回転」からなる群は、単純な群ではありません。



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