抽象的な内部・外部・境界

「内部・外部・境界」再論

$\displaystyle{X}$を位相空間として、
$\displaystyle{A}$$\displaystyle{X}$の部分集合とします。
さて$\displaystyle{A}$の「内部・外部・境界」の定義を以下にまとめます。

$\displaystyle{A}$の内部・・・・・・$\displaystyle{A}$の内点を全て集めた集合
$\displaystyle{A}$の外部・・・・・・$\displaystyle{A}$の外点を全て集めた集合。あるいは$\displaystyle{A}$の補集合$\displaystyle{\overline{A}}$の内点を全て集めた集合
$\displaystyle{A}$の境界・・・・・・$\displaystyle{A}$の内部でも外部でもない元を全て集めた集合

例1

$\displaystyle{X=\{a,b,c\}}$として、
$\displaystyle{\mathscr{T}=\{ \{\}, \{a\}, \{a,b\}, \{a,c\}, \{c\}, \{a,b,c\} \}}$とします。

$\displaystyle{\mathscr{T}}$開集合の公理を満たしているので、
$\displaystyle{X}$$\displaystyle{\mathscr{T}}$を開集合とした位相空間になっています。


さて、ここで$\displaystyle{\{b,c\}}$は位相空間$\displaystyle{X}$の部分集合です。
$\displaystyle{\{b,c\}{\subset}X}$です。

その$\displaystyle{\{b,c\}}$の内部・外部・境界を実際に求めてみましょう!!!

例1の内部

はいっ!!
まずは$\displaystyle{\{b,c\}}$内部です。
“内部”とは、内点を全て集めた集合なので、
$\displaystyle{b}$$\displaystyle{c}$がそれぞれ$\displaystyle{\{b,c\}}$の内点かどうかを調べればよいですね。



まず$\displaystyle{b}$$\displaystyle{\{b,c\}}$の内点ではありません
$\displaystyle{b}$を含む開集合としましては$\displaystyle{\{a,b\}}$$\displaystyle{\{a,b,c\}}$とありますが、
いずれも$\displaystyle{\{b,c\}}$の部分集合ではありません。
つまり$\displaystyle{b{\in}U_b{\subset}\{b,c\}}$となるような開集合$\displaystyle{U_b}$が存在しないのです。
(↑もし、このことが分からなければ、もう一度内点の定義をご確認ください。)




次に$\displaystyle{c}$$\displaystyle{\{b,c\}}$の内点になります。
$\displaystyle{c}$を含む開集合には、$\displaystyle{\{c\}}$がありますが、
これは$\displaystyle{c{\in}\{c\}{\subset}\{b,c\}}$となるからです。

例1の外部

次に、$\displaystyle{\{b,c\}}$の外部を求めます。
$\displaystyle{\{b,c\}}$の外部というのは、$\displaystyle{\{b,c\}}$の補集合の内部でした。
つまり$\displaystyle{\{a\}}$の内部を求めればいいのです。



集合$\displaystyle{\{a\}}$の元である$\displaystyle{a}$を調べればよいのですが、

$\displaystyle{\{a\}}$は、それ自身開集合でもあるので、
$\displaystyle{a}$$\displaystyle{\{a\}}$の内点です。


よって$\displaystyle{\{b,c\}}$の外点は$\displaystyle{a}$だけです。

例1の境界

さて“境界”とは、内点でも外点でもない元を集めた集合のことです。

$\displaystyle{\{b,c\}}$の内点は$\displaystyle{c}$で、
$\displaystyle{\{b,c\}}$の外点は$\displaystyle{a}$なので、
それ以外の元といえば$\displaystyle{b}$ですよね。


ですので$\displaystyle{\{b,c\}}$の境界は$\displaystyle{\{b\}}$となります。

例1のまとめ

さてさて(^o^ノ

例1の位相空間の例では、
$\displaystyle{\{b,c\}}$の内部は$\displaystyle{\{c\}}$
$\displaystyle{\{b,c\}}$の外部は$\displaystyle{\{a\}}$
$\displaystyle{\{b,c\}}$の境界は$\displaystyle{\{b\}}$
となりました!!!

・・・と言っても、果たして信じられますか???



へぇ〜集合{b,c}の境界線は{b}なんだぁ〜〜(笑)
とは・・・何だか直感的にイメージしにくいですよね??


前回の例では、内部・外部・境界が直感的にとてもイメージしやすい形となりました。

しかし・・・今回は一体何どうしたことでしょう(゜o゜;)



これが、位相の特徴(?)なのですが、
ユークリッド位相(実数上の通常の位相のことですよ〜)から離れてしまうと、
とても抽象的すぎて分かりにくくなってしまいます。



しかし、いくら直感的にイメージしにくけれども、
{b,c}の境界は{b}であることは確かです。
確かなのです!!!!


このように、数学とは定義主義なのです。

例2

さて、次の例を見てみましょう。

$\displaystyle{\{a,b,c,d,e\}}$
$\displaystyle{\mathscr{T}=\{ \{\}, \{b\}, \{b,c,d\}, \{b,c,d,e\}, \{c,d\}, \{c,d,e\}, \{a,b,c,d,e\} \}}$
というように、$\displaystyle{\mathscr{T}}$を開集合とした、位相空間$\displaystyle{X}$を考えます。

さて、$\displaystyle{\{a,c,d\}}$の内部・外部・境界を求めましょうっ!


$\displaystyle{a}$を含む開集合は全体、$\displaystyle{\{a,b,c,d,e\}}$しか存在しません。
よって
$\displaystyle{a{\in}U_a{\subset}\{a,c,d\}}$となるような開集合$\displaystyle{U_a}$は存在しないので、
$\displaystyle{a}$$\displaystyle{\{a,c,d\}}$の内点ではありません。

しかし$\displaystyle{\{c,d\}}$という開集合は存在するため、
$\displaystyle{c,d}$はそれぞれ$\displaystyle{\{a,c,d\}}$の内点になります。




次に$\displaystyle{\{a,c,d\}}$の外部、つまり$\displaystyle{\{b,e\}}$の内部を求めたいと思います。
$\displaystyle{\{b\}}$という開集合が存在するため、
$\displaystyle{b}$$\displaystyle{\{b,e\}}$の内点です。
つまり$\displaystyle{b}$$\displaystyle{\{a,c,d\}}$の外点です。
一方、$\displaystyle{e}$$\displaystyle{\{b,e\}}$の内点ではありませんよね。



次に$\displaystyle{\{a,c,d\}}$の境界ですが、
これはもう、内部と外部が求まったので、もう分かりますねっ!!






以下に諸結果をまとめます(^o^ノ。
$\displaystyle{\{a,c,d\}}$の内部は$\displaystyle{\{c,d\}}$
$\displaystyle{\{a,c,d\}}$の外部は$\displaystyle{\{b\}}$
$\displaystyle{\{a,c,d\}}$の境界は$\displaystyle{\{a,e\}}$


はいっっ!!
これも「なるほど!!{a,c,d}の境界は{a,e}なんだね!」なぁんて、直感的にとても思えないと思います。



何度も言うように、数学は定義主義です。

確かにユークリッド空間以外の位相空間は、直感的に分かりにくいものばかりです。
しかし、こういう抽象的なものでも、内部・外部・境界という概念を作りだすことができたのです。
つまり、「内部・外部・境界」の意味を、一般的なものにも拡張した、と考えてもよいでしょう。


だから、「内部・外部・境界」の意味を広げることができた・・・
ということなので、本当は喜んでもいいことなのですよ〜…

このように、かなり抽象的なものでさえ、
意味を拡張することで、さまざまな議論ができるようになるからです・・・。
↑きっと、数学を初めてやる人には『そんなことして何が嬉しいんだょぉ』と思うだろうなぁ( 。-ω-)

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